【脳梗塞のリハビリ】手の痙縮・動かしにくさを改善!親指・指のサポーターと装具の選び方ガイド

手や指の動きは、食事や着替えなど日常生活の様々な場面で重要です。リハビリの効果を最大限に引き出すためには、ご自身の症状に合った装具やサポーターを正しく選ぶことが欠かせません。
この記事は、シリーズ第2弾として、特に「親指」と「指先」の動きに焦点を当てた装具・サポーターをご紹介します。
「【脳梗塞のリハビリ】手首下がり・指の握り込みに!基本のサポーターと装具の選び方ガイド」でご紹介した【背屈リストサポーター】や【スパイダースプリント】との併用も効果的ですので、ぜひ合わせてご覧ください。
※ご紹介する装具・サポーターは、市販品や当施設で作成・提供しているものです。ご自身の症状に合うか、必ず専門家にご相談の上ご使用ください。
【親指の悩み】親指を広げ、つまみ動作を助ける『親指サポーター・対立装具』
こんなお悩みの方におすすめです
- 筋肉のこわばり(痙縮)で、親指が手のひら側に強く曲がってしまう
- 麻痺の影響で、親指を外に広げる力が弱い
- ペットボトルのキャップを開けるなど、親指と他の指で物をつまむ動作が難しい
期待できる2つの効果(使用目的)
① 痙縮の緩和と持続的なストレッチ
意図せず親指が強く握り込んでしまう「痙縮」。この状態が続くと、筋肉や関節が硬くなり(拘縮)、ますます手が開きにくくなる悪循環に陥ります。
親指用のサポーターや装具は、親指を優しく、かつ持続的に開いた状態に保つことで、効果的なストレッチを行います。これにより、筋肉の緊張を和らげ、手の機能維持を目指します。
手首の曲がりも気になる方は、第1弾でご紹介した【背屈リストサポーター】を、他の4本の指の開きにくさも改善したい場合は【スパイダースプリント】を併用すると、より効果的です。
② つまみ動作の改善と正しい動きの学習
親指は、人差し指など他の指と向かい合う「対立運動」ができることで、私たちは物を精密につまむことができます。
この装具は、親指を機能的な位置に導くことで、正しいつまみ動作をサポートします。例えば、ペンを持つ、ボタンをかけるといった具体的な練習を
行う際に、より安定したフォームで繰り返しトレーニングでき、脳に正しい動きを再学習させる助けとなります[1]。
布製の「サポーター」と硬質の「対立装具」、どちらを選ぶべき?
素材によって特徴が異なります。ご自身の目的や症状に合わせて選びましょう。
安全に使うための注意点
- 痛みは我慢しない: 装着時に痛みを感じる場合は、無理に使用せず、角度や位置を調整してください。強い痛みが続く場合は使用を中止し、専門家(医師や作業療法士など)に相談しましょう。
- 皮膚の状態をチェック: 特に硬い素材の装具は、皮膚を傷つける可能性があります。最初は1時間程度の短い時間から始め、皮膚に赤みや傷ができていないかこまめに確認してください。
- 自己判断での調整は危険: 親指と人差し指の間の水かき部分(母指間)が硬い方が無理に親指を広げると、かえって他の指が曲がりやすくなることがあります。最適な角度は専門家による評価の上で設定することが重要です。
【指先の悩み】指の曲がりすぎを防ぐ『指サポーター・8の字スプリント』
こんなお悩みの方におすすめです(適応)
- 豆やビーズのような小さい物を、指先でつまみ上げようとすると失敗する
- 紙をめくろうとすると、指が滑ってしまう
- 筋肉のこわばり(痙縮)で、指が曲がったままになりやすい
- 指の関節(特に第一関節や第二関節)が不安定で、しっかり支えられない
このような「指の過剰な曲がり(屈曲)」は、麻痺の影響で指を伸ばす筋力と曲げる筋力のバランスが崩れることで起こります。この状態では、物をつまむための安定した指の形を保つことが難しくなります。
期待できる効果(使用目的)
指サポーターや8の字スプリントは、問題の関節を物理的に支え、必要以上に曲がりすぎないように固定するのが最大の目的です。
これにより、以下のような効果が期待できます。
- 安定したつまみ動作の実現: 指が適切な角度で固定されるため、指先で物をしっかりと捉えることができます。これにより、これまで難しかった細かい作業(例:小銭を拾う、薬をシートから出すなど)の成功率が高まります。
- 正しい感覚の再学習: 指先が安定すると、物に「正しく触れている」という感覚情報が脳に伝わりやすくなります。この「感覚のフィードバック」を繰り返すことで、脳が正しい指の動かし方を再学習するのを助けます。
布製の「サポーター」と硬質の「8の字スプリント」、どちらを選ぶべき?
指を支える装具にも、素材や形状によって特徴があります。「8の字スプリント」とは、指の関節を数字の「8」のようにリングで固定することからその名がついています。
ご自身の症状や目的に合わせて、適切なタイプを選びましょう。
安全に使うための注意点
指先は非常にデリケートです。安全にお使いいただくために、以下の点を必ず守ってください。
- 痛みやしびれはサイン: 装着中に痛みやしびれ、指先の色が白や紫色に変わるなどの血行不良のサインが見られたら、直ちに使用を中止してください。サイズが合っていないか、締め付けが強すぎる可能性があります。
- 皮膚トラブルの確認: 長時間の使用は蒸れや摩擦による皮膚トラブルの原因となります。定期的に外し、皮膚に赤みやかぶれ、傷がないかを確認しましょう。
- 正しい関節に装着する: 目的と異なる関節に装着すると、効果がないばかりか、かえって動きを妨げてしまうこともあります。どの関節をどの程度固定すべきか、必ず専門家のアドバイスを受けてください。
まとめ:専門家と相談し、あなたに最適な装具でリハビリの効果を高めよう
全2回のコラムを通じて、ご自宅での手のリハビリ効果を高めるための様々な装具・サポーターをご紹介してきました。
第1弾:【脳梗塞のリハビリ】手首下がり・指の握り込みに!基本のサポーターと装具の選び方ガイド
あなたの今のお悩みに、対応するものは見つかったでしょうか?
- 手首がだらんと下がる、手が開きにくい → 【背屈リストサポーター】(第1弾)
- 指が全体的に曲がり、パーにしにくい → 【スパイダースプリント】(第1弾)
- 親指が内側に握り込まれてしまう → 【親指サポーター・対立装具】(今回)
- つまむ時に指先がカクンと曲がりすぎる → 【指サポーター・8の字スプリント】(今回)
これらの装具は、リハビリにおける「補助輪」のようなものです。装着するだけで劇的に手が動くようになるわけではありません。正しい手の形で、繰り返し動作練習を行うことで、脳に適切な動きを再学習させ、機能の回復を目指すための大切なパートナーです。
しかし、最も重要なのは「あなたの現在の症状や目的に、本当に合っているか」を見極めることです。自己判断で選んだ装具が、逆効果になってしまうケースも少なくありません。
ご興味のある装具が見つかったら、まずはかかりつけの医師や、日頃リハビリを担当している理学療法士・作業療法士に「こういう装具を使ってみようと思うのですが、どうでしょうか?」と、ぜひ一度相談してみてください。
当施設でも、専門の作業療法士がお客様一人ひとりの手の状態を詳細に評価し、最適な市販品のご提案からオーダーメイド装具の作成までサポートしております。ご自身の手に合った装具について詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。
正しい知識とあなたに合った道具で、諦めかけていた「できた!」という喜びを取り戻しましょう。その一歩を、私たちは全力で応援します。
出典
1)天野暁,竹林崇,花田恵介,梅地篤史,丸本浩平,道 免和久:慢性期重度上肢麻痺に対する手指装具使用下 での Modified CI 療法の一症例,作業療法ジャーナル, 48(3),259-264,(2014).
脳梗塞のリハビリTips
AViC Report よく読まれている記事