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麻痺手の機能回復をあきらめない! エビデンスに基づいた7つのリハビリ手法

はじめに

以前、脳梗塞のリハビリで知っておくべき10個の方法にて脳梗塞のリハビリの全体像をまとめました。

今回は、その中でも麻痺手の機能改善に関するリハビリ手法をピックアップしました。

まず、手の麻痺を克服するためのリハビリテーションは、多方面からのアプローチが重要です。

本記事では、エビデンス(科学的根拠)に基づいた効果的なリハビリプログラムを、本邦の治療指針である診療ガイドラインに沿ってご紹介します。

日常生活の動作向上を目指すCI療法から、最先端のロボット療法、電気刺激療法、そして脳を活性化させるtDCSやrTMSに至るまで、あなたの回復をサポートする様々な手法を紹介していきます。

あなたがいま取り組まれているリハビリ手法がどのような理論で行われており、どのような効果が期待できるのかを中心にまとめていますので、一緒に探求しましょう。麻痺手・腕の改善に効果的なリハビリプログラム


ここではリハビリに関する診療ガイドラインに記載されている、一定以上の効果が期待できるリハビリプログラムを紹介します。



1. CI 療法(constraint-induced movement therapy)

1-1 CI療法とは?


対象者の麻痺手(麻痺がある側の手)を利用した目標を達成し、実生活における麻痺手の使用を改善させることを目的としたプログラムです[1]。


そのため、課題や環境を個別に設定し、非麻痺手(麻痺していない側の手)を使わずに、麻痺手をたくさん使います。


 


1-2 CI療法の効果


発症早期から慢性期(発症後6ヶ月以上)まで幅広く用いられている、推奨度の高いプログラムです[2,3]。CI療法の効果については、麻痺手の運動機能の改善はもちろんですが、実生活での使用頻度が向上する点で、他のプログラムよりも優れています[2–4]。



2. 課題指向型トレーニング

2-1 課題指向型トレーニングとは?


麻痺手を目的なしに動かすトレーニングではなく、実生活での麻痺手の使用を目標に、それに必要な動きを実際の物品等を使用して練習するトレーニングです[5]。


例えば、『ドアの開け閉め』『歯ブラシで歯を磨く』『コップで水を飲む』『お箸で食事をする』などが挙げられます。また、対象者によってやり方の好みが異なる(例:箸の持ち方など)ため、課題設定や難易度調整は専門家と一緒に考えていく必要があります。


 


2-2 課題指向型トレーニングの効果


課題指向型トレーニングの効果については、手段的なトレーニング(例:ブロックを多方向へ移動させる課題)では麻痺手の運動機能の改善が期待できます。また、目的的なトレーニング(例:実際にお箸を使用)でのトレーニングは、実生活での麻痺手の使用頻度向上が期待できます[6,7]。



3. ロボット療法

3-1 ロボット療法とは?


リハビリを支援する目的に開発されたロボットを使用し、麻痺手の機能回復を図るトレーニングです。麻痺手に用いられるロボットは多岐にわたり、日本ではReoGo®/ ReoGo®-J(帝人ファーマ社)、MELTz(MELTIN社)、Bi-Manu-Track(Reha-Stim社)、Armeo® Power(Hocoma社)などがあります。


 


3-2 ロボット療法の効果


日本の脳卒中治療ガイドライン2021では推奨レベルB(行うように勧められる)とされており、近年その効果が注目されています。


現状で、病院等でのロボット療法はセラピストが1対1で関わるトレーニングの代替ではなく、自主トレ機器として用いることで、麻痺手の機能(例:腕を上げる、手首を上げる、指の曲げ伸ばしなど)の回復が期待できます[8,9]。一方で、ロボット療法が実施できる施設は限られており、病院外では一部の自費のリハビリ施設で導入されているところもあります。



4. 電気刺激療法

4-1 電気刺激療法とは?


電気刺激療法は、筋肉や神経に対して、電気刺激を与えるリハビリ手法です。日本における脳卒中治療ガイドライン2021でも麻痺手の機能障害に対して推奨度B(行うように勧められる)と記載されています。


電気刺激療法の種類として、機能的電気刺激(Functional electrical stimulation : FES)、治療的電気刺激(Therapeutic electrical stimulation : TES)に大別されます。さらに、TESは神経筋電気刺激(Neuromuscular electrical stimulation : NMES)と経皮的末梢神経電気刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation : TENS)に分けられます。リハビリも目的に合わせて使い分けることが重要です。


 


4-2 電気刺激療法の効果


電気刺激療法は運動パフォーマンス(例:リーチ動作、物品の運搬、小さい物品のつまみ、など)の向上[10]や、運動機能(例:指を開く・握る、腕を上げる・開く、指を1本ずつ動かす、など)の向上が期待できます[11]。また、麻痺の影響で肩周りの筋肉が弱くなり、肩が亜脱臼してしまうことがあります。その場合、痛みが伴うことも少なくないです。そういった症状に対しても、電気刺激が有効という報告があります[11,12]


また、痙縮(麻痺側の筋肉が異常に緊張してしまい、こわばる症状)に対しても脳卒中治療ガイドライン2021では推奨されていますが、麻痺手に対する有効性は不明確です。



5. メンタルプラクティス(mental practice)

5-1 メンタルプラクティスとは?


運動技能(運動を上手にこなすのに必要な体の使い方や能力)を高めるために、実際に体を動かす前に、頭の中でその運動をするイメージを作って練習するトレーニング方法です。


 


5-2 メンタルプラクティスの効果


メンタルプラクティスを他の麻痺手に対するリハビリ手法と一緒に用いることで、麻痺手の運動機能や運動パフォーマンス、実生活での麻痺手の使用頻度の向上が期待できます[13]。また、トレーニング効果は麻痺が重度の人ほど効果が期待できると報告されています[14]



6. ミラーセラピー

6-1 ミラーセラピーとは?


鏡の前で麻痺していない手や腕を動かすと、鏡に映った姿がまるで麻痺手や腕が動いているように映ります。それを見ることで、脳に運動錯覚(麻痺手や腕が動いていると感じる)が生じて、麻痺手や腕の運動機能改善を図るトレーニング方法です。例えば、右手が動かしにくいときに、左手を鏡の前で動かすと、鏡に映った左手が右手のように見えて、右手も動いているように感じることができます。


 


6-2 ミラーセラピーの効果


ミラーセラピーは、麻痺手や腕の運動パフォーマンス(例:リーチ動作、物品の運搬、小さい物品のつまみ、など)の向上が期待されます[15]。また、運動機能(例:指を開く・握る、腕を上げる・開く、指を1本ずつ動かす、など)に対しても効果が期待できます[15,16]。


ミラーセラピーは道具を自作できるので、やり方さえ覚えてしまえばホームエクササイズとして実施可能です。また、その効果も報告されています[17,18]



7. 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)/反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)

7-1 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)/反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)とは?


tDCSは、表面電極を頭皮の上に置き、脳の特定の部分に小さな電流を送ることで、脳の働きを変えるリハビリ手法の一つです。脳に電流を流すことで、神経細胞の活動が活発になったり、逆に抑えられたりします。rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)は、脳の特定の部位に磁気のパルスを繰り返し送ることで、脳の活動を変える医療技術です。この方法では、頭皮の上に置いたコイルから磁気のパルスを発生させ、それを通じて脳の神経細胞を刺激します。


 


7-2 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)/反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の効果


tDCSとrTMSは麻痺手の運動パフォーマンス(例:リーチ動作、物品の運搬、小さい物品のつまみ、など)の改善が期待できます[19]。また、tDCSは運動学習(特定の動作が上手になること)にも効果が期待されています[20]。rTMSも麻痺手の運動パフォーマンス(例:リーチ動作、物品の運搬、小さい物品のつまみ、など)の改善が期待できます[21]。どちらも、単独で介入するのではなく、他の介入手法と組み合わせることで効果が期待できます。また、安全性に関しても研究段階ですので、使用する際は医師に確認する方が良いです。


 



まとめ

麻痺手に対する効果的なプログラムについて紹介しました。どのリハビリ手法にも得意不得意があります。実際に実施する際には、専門家の意見を聞きつつ、総合的に判断するようにしましょう。



出典

1.Morris DM, Taub E, Mark VW. Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. Eura Medicophys. 2006;42: 257–268.


2.Nijland R, Kwakkel G, Bakers J, van Wegen E. Constraint-induced movement therapy for the upper paretic limb in acute or sub-acute stroke: a systematic review. Int J Stroke. 2011;6: 425–433.


3.McIntyre A, Viana R, Janzen S, Mehta S, Pereira S, Teasell R. Systematic review and meta-analysis of constraint-induced movement therapy in the hemiparetic upper extremity more than six months post stroke. Top Stroke Rehabil. 2012;19: 499–513.


4.Corbetta D, Sirtori V, Castellini G, Moja L, Gatti R. Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015: CD004433.


5.Timmermans AAA, Spooren AIF, Kingma H, Seelen HAM. Influence of task-oriented training content on skilled arm-hand performance in stroke: a systematic review. Neurorehabil Neural Repair. 2010;24: 858–870.


6.Taub E, Uswatte G, Mark VW, Morris DM, Barman J, Bowman MH, et al. Method for enhancing real-world use of a more affected arm in chronic stroke: transfer package of constraint-induced movement therapy. Stroke. 2013;44: 1383–1388.


7.French B, Thomas LH, Coupe J, McMahon NE, Connell L, Harrison J, et al. Repetitive task training for improving functional ability after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11: CD006073.


8.Takahashi K, Domen K, Sakamoto T, Toshima M, Otaka Y, Seto M, et al. Efficacy of Upper Extremity Robotic Therapy in Subacute Poststroke Hemiplegia: An Exploratory Randomized Trial. Stroke. 2016;47: 1385–1388.


9.高橋香代子. 上肢機能障害に対するロボット療法. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2020;57: 786–791.


10.Howlett OA, Lannin NA, Ada L, McKinstry C. Functional electrical stimulation improves activity after stroke: a systematic review with meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96: 934–943.


11.Yang J-D, Liao C-D, Huang S-W, Tam K-W, Liou T-H, Lee Y-H, et al. Effectiveness of electrical stimulation therapy in improving arm function after stroke: a systematic review and a meta-analysis of randomised controlled trials. Clin Rehabil. 2019;33: 1286–1297.


12.Lee J-H, Baker LL, Johnson RE, Tilson JK. Effectiveness of neuromuscular electrical stimulation for management of shoulder subluxation post-stroke: a systematic review with meta-analysis. Clin Rehabil. 2017;31: 1431–1444.


13.Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Semenko B, Schubert J. Mental practice for treating upper extremity deficits in individuals with hemiparesis after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5: CD005950.


14.Stockley RC, Jarvis K, Boland P, Clegg AJ. Systematic Review and Meta-Analysis of the Effectiveness of Mental Practice for the Upper Limb After Stroke: Imagined or Real Benefit? Arch Phys Med Rehabil. 2021;102: 1011–1027.


15.Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, et al. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018;7: CD008449.


16.Zeng W, Guo Y, Wu G, Liu X, Fang Q. Mirror therapy for motor function of the upper extremity in patients with stroke: A meta-analysis. J Rehabil Med. 2018;50: 8–15.


17.Michielsen ME, Selles RW, van der Geest JN, Eckhardt M, Yavuzer G, Stam HJ, et al. Motor recovery and cortical reorganization after mirror therapy in chronic stroke patients: a phase II randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2011;25: 223–233.


18.Hsieh Y-W, Chang K-C, Hung J-W, Wu C-Y, Fu M-H, Chen C-C. Effects of Home-Based Versus Clinic-Based Rehabilitation Combining Mirror Therapy and Task-Specific Training for Patients With Stroke: A Randomized Crossover Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99: 2399–2407.


19.O’Brien AT, Bertolucci F, Torrealba-Acosta G, Huerta R, Fregni F, Thibaut A. Non-invasive brain stimulation for fine motor improvement after stroke: a meta-analysis. Eur J Neurol. 2018;25: 1017–1026.


20.Kang N, Summers JJ, Cauraugh JH. Transcranial direct current stimulation facilitates motor learning post-stroke: a systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016;87: 345–355.


21.Xiang H, Sun J, Tang X, Zeng K, Wu X. The effect and optimal parameters of repetitive transcranial magnetic stimulation on motor recovery in stroke patients: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2019;33: 847–864.


荒井 一樹
執筆者

荒井 一樹

理学療法士
回復期リハビリテーション病院、地域包括ケア病棟で主に脳血管疾患、整形外科疾患、内部疾患の患者様に対するリハビリテーション医療に従事してきました。科学的根拠に基づいたリハビリに加え、在宅生活を見据えた支援を行います。

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